後藤純男（1930年1月21日-2016年10月18日）は千葉県東葛飾郡木間ヶ瀬村（現・野田市）生まれの日本画家。真言宗の僧侶となる修業を受けながら画家を志し、22歳で院展初入選を機に仏道を捨てて絵の道を選ぶ。日本美術院賞（大観賞）、内閣総理大臣賞、日本芸術院賞・恩賜賞など数々の栄誉を受賞し、日本美術院理事を務める。北海道空知郡上富良野町に後藤純男美術館を開館。厳しい自然を捉えた北海道の滝の連作、四季の表情を描いた法隆寺などの大和古寺シリーズ、中国の山河や農村風景など、取材を重ねて多様な風景を描いた。作品には宗教的荘厳さが漂い、荘重かつ峻厳な画風で比類なき存在感を放った。

後藤純男「春雪塔暎」日本画 10号 金落款 金泥仕様 共シール
本作《春雪塔暎》は、日本画の巨匠・後藤純男による雪景の傑作です。画面中央には、奈良の古寺を想起させる三重塔が厳かにそびえ立ち、春の雪に包まれた静寂な境内の情景が、まるで時を止めたかのように描き出されています。「春雪」とは、春先に降る柔らかく儚い雪を指し、「塔暎」はその雪に照らされ、仏塔が仄かに光を放つ様を意味しています。画題に込められたこの詩情あふれる表現は、画面にも見事に具現されており、金泥のきらめきが塔や雪面にかすかに反射し、荘厳で神秘的な空気を醸し出しています。

白銀に沈む森や瓦屋根、そして静けさを湛えた空の深い藍色との対比が、冬から春への移ろいを象徴的に表現。絵全体が厳しい自然と仏教的精神性の調和を語っており、後藤が生涯をかけて追い求めた「心で描く風景」が、ここに結実しています。後藤純男は、若き日には僧侶の修行を積みながら絵の道に進み、日本美術院を中心に数々の賞を受けた日本画壇の重鎮です。本作も、古刹や大和の風景を丹念な取材に基づき描いた「大和古寺シリーズ」の精神を色濃く映し出す一枚といえましょう。本作は、ただの風景描写にとどまらず、宗教的な荘厳さと自然の静謐さが融け合った、まさに祈りの絵画と呼ぶにふさわしい名品です。