
文庫です。 きれいなほうです。
医学立国、農業立国、好色立国を掲げ、東北の一寒村が突如日本から分離独立した!
SF、パロディ、ブラックユーモア、コミック仕立て、
小説のあらゆる面白さ、言葉の魅力を満載した記念碑的巨編。全三巻。
日本SF大賞、読売文学賞受賞作。
独立二日目、吉里吉里国の通貨イエンのレートは日本円に対して刻々上昇、世界中の大企業が進出した。だが国外から侵入した殺し屋や刑事らも徘徊、ついに初の犠牲者が出る。さらに日本国自衛隊も吉里吉里国最大の切り札四万トンの金の奪取に乗り出した。
SF、パロディ、ブラックユーモア、コミック仕立て……小説のあらゆる面白さ、言葉の魅力を満載した記念碑的巨編。
目次
第十八章(でーづーはづしょ)妾(わだしゃ)ァ誉れの吉里吉里綿(わだ)吹き娘でごぜーます
第十九章(でーづーくしょ)冷凍人間(れーとーぬんげん)ば起(おごす)したのは何処(どご)のお節介焼(せっけーや)ぎだべな
第二十章(でーぬづっしょ)わし、冷凍睡眠中の世界医学哲学界の巨人なんだもんね
第二十一章(でーぬづーえっしょ)恋(こえ)さ心(こごろ)ば乱(めだ)す者(もん)よりも黄金(ちん)さ心ば乱す者の方(ほー)が多い(おーえ)んだっちゃ
第二十二章(でーぬづーぬしょ)貴方(あんだ)ァ第一回(でーえっけー)吉里吉里文学大賞(てーそー)の栄(へー)ある受賞者(づそーさ)さ決(ち)まり申した。受げで貰えっぺがなス
第二十三章(でーぬづーさんしょ)ヘリコプター(ヘレコプタ)の大群(てーぐん)と(ど)蝗(えなご)の大群と、どっちが怖(おっかね)いべがなス
第二十四章(でーぬづーよんしょ)独り立ちしたい者ァこの指(ゆんび)さ止まれ
第二十五章(でーぬづーごしょ)何人(なんぴと)もその思考(すこー)さ対(てー)すて刑罰(けーばづ)ば受ぐるごどなし、でガス
第二十六章(でーぬづーろぐしょ)タッチ(ツ)だ、タッチ(ツ)だ、誰が早(はえ)ぐ俺(おら)の手さタッチして呉(け)ろや
第二十七章(でーぬづーすづしょ)古橋(ふるはす)先生(せんせ)てば、化粧(けそー)の仕方(すかた)ば教(おせー)えであげっぺが
終章(すーしょ)古橋大統領様(でーとーろーさー)、其様(そげ)な事(ごど)ば喋(さべ)っては駄目だ(わがんねー)!
解説:由良君美(英文学者)
本文より
何十体もの裸の人間たちは、この妙な照明と、熱気と、そして湿気の中に不安定に浮んでいた。天井のレールの滑車に結びつけられた針金で吊り下げられているのである。裸の人間にはそれぞれ、箱と点滴用の管(くだ)と排泄用ゴム管とが一組になってまとわりついていた。箱からも蛇腹式の太い管が出ており、管の先端はマスクの如く変形し、浮遊者たちの鼻と口を覆っている。箱の横腹には、真鍮製の薄いプレートが打ちつけてあった。上部には、
〈吉里吉里式人工呼吸器第「*」号〉
と彫られていて、この十三文字はすべての箱のプレートに共通していた。……
(「第十九章 冷凍人間ば起したのは何処のお節介焼ぎだべな」)
井上ひさし(1934-2010)
山形県生れ。上智大学文学部卒業。浅草フランス座で文芸部進行係を務めた後、「ひょっこりひょうたん島」の台本を共同執筆する。以後『道元の冒険』(岸田戯曲賞、芸術選奨新人賞)、『手鎖心中』(直木賞)、『吉里吉里人』(読売文学賞、日本SF大賞)、『腹鼓記』、『不忠臣蔵』(吉川英治文学賞)、『シャンハイムーン』(谷崎潤一郎賞)、『東京セブンローズ』(菊池寛賞)、『太鼓たたいて笛ふいて』(毎日芸術賞、鶴屋南北戯曲賞)など戯曲、小説、エッセイ等に幅広く活躍した。2004(平成16)年に文化功労者、2009年には日本藝術院賞恩賜賞を受賞した。1984(昭和59)年に劇団「こまつ座」を結成し、座付き作者として自作の上演活動を行った。